さくはなし
作・中野浩作
作品紹介
大きなお屋敷で、帰ってこない父を待ち続ける「お嬢様」。
彼女のそばには、執事のトマ、メイドのツジ、女中のおせん、番犬のBC。
使用人たちはそれぞれの「習慣」に従いながら、お嬢様を守り、世話をし、決して屋敷の外へ出さない。
お嬢様が欲しがるのは、一輪の花。
けれど彼女は、花がどんな形をしているのか知らない。
そんな屋敷に、ときおり「虫けら」たちが入り込んでくる。
蝶のように、虫のように、どこか捉えどころのない彼らは、閉じられた屋敷の外側に別の世界があることを、お嬢様に少しずつ知らせていく。
「可愛い」と「愛らしい」。
「人形」と「人間」。
「習慣」と「自由」。
「花」と「虫けら」。
同じ朝、同じ会話、同じ決まり事を繰り返す屋敷の中で、少しずつ何かがずれていく。
これは、誰かに守られることと、誰かに形を決められることの境界をめぐる物語。
そして、自分の花を咲かせるために、「習慣」を断ち切ろうとする話。
舞台・世界観
舞台の中心となるのは、お嬢様と使用人たちが暮らす一つの屋敷。
屋敷では、毎日ほとんど同じ朝が繰り返される。
お嬢様は、どこかへ出かけた父を見送り、帰りを待つ。
使用人たちは、お嬢様に水を与える、絵を描く、身の回りを整える、虫けらを追い払う――それぞれに決められた「習慣」を持っている。
その習慣は仕事であると同時に、この屋敷そのものを維持するルールにもなっている。
屋敷の外には柵があり、その向こうは暗闇として語られる。
使用人たちは外を危険な場所として扱い、お嬢様が出ていくことを禁じている。一方、柵の向こうには「虫けらたちの町」が存在し、屋敷とは異なる価値観や生き方を持つ者たちが暮らしている。
この世界では、人形、花、虫けら、習慣といった言葉が、単なる物や生き物以上の意味を持つ。
人は同じ行動を繰り返すうちに「人形」のようになり、
屋敷の外から来る者は「虫けら」と呼ばれ、
自分自身の何かを獲得した者のもとには「花」が現れる。
そして、その人形を縛っている「習慣」は、舞台上ではまるで糸のようなものとして扱われ、鋏によって「切る」ことができる。
現実の屋敷でありながら、童話や人形劇のようでもある。
日常的な会話と不条理な言葉遊びが反復される中で、屋敷のルールそのものが次第に揺らいでいく――そんな閉じた世界を舞台にした作品。

