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階段男

階段男が今日も、階段を上っている。
階段を上り切って、見えなくなる。
階段男が、階段を下りてくる。
階段男に声を掛ける。
階段男はぼそりと言う。
「おれぁ、血液、なんだよ」


階段男の階段は、工場に巻き付いている煉瓦の塔にある。


私はロッカールームで着替えをすませ、タイムカードを切る。
ヘルメットと、厚手のマスクをして、持ち場につく。
清掃員のイセタさんがモップを担いで工場から出て行く。
ハタナカ主任が工場の電源を入れる。
大きな音を出して、機械が動き始める。
ベルトコンベアで大量の煉瓦が流れてくる。


私は確認する。
確認する。
確認する。
目を皿にして確認する。
煉瓦の流れてくるのを確認する。
それが私の仕事だ。機械の仕事は完璧で煉瓦はどれも美しい。私がこの工場で働き始めて
から、一度も不良品は見たことがない。だから私の仕事は完璧だ。いっそ見なくてもいい
ぐらいだ。それぐらい完璧な仕事を機械はする。だから私は優秀な仕事ができる。おかげ
で、一度も不良品を見たことがない。私は仕事が出来るから。
血眼で確認する。
どこにもミスはない。
しっかり仕事をすれば、ハタナカ主任が酒をおごってくれる。
しっかり仕事をすれば、いつか私も主任になれる。
同僚達の仕事は遅い。
私の仕事の方は完璧だ。
煉瓦の出来は完璧なのだから、私の仕事の方は完璧に決まっている。
と、ベルトコンベアの向かい側で作業をしている同僚も、私に向かって思っていることだ
ろう。


いけすかない、コオリヤマ。私はコオリヤマが嫌いだ。コオリヤマのマスクの下のひねく
れた口はコオリヤマらしくひねくれて笑っていることだろう。いけすかない。
隣で作業をしているユダガワはいつも可愛い顔をしている。
ユダガワは仕事が出来なくてもいい。ユダガワの分は私がやる。そうしたら私はユダガワ
と寝ることが出来るかもしれない。


私は優秀だ。この工場で一等優秀だ。
優秀な私が煉瓦の確認をする。
確認をする。
確認をする。
血眼になって確認をする。
目を皿にして確認をする。


今日も、階段男が階段を上っている。
階段男は二人になっている。
階段男は二人で階段を上っていく。
二人目の階段男はどこかで見た同僚だった。
二人の階段男は階段を上っていき、見えなくなった。


私は確認する。
どれもこれも綺麗な造形だ。つまり、私の仕事は完璧だ。


階段男が三人になったコオリヤマは階段男になった。
私はコオリヤマに声を掛けた。
「おれぁ、血液、なんだよ」
階段男が三人一緒にそう言った。


ユダガワがミスをした。
しかし、私が助けてやった。
しかし、ハタナカ主任はそれを許さなかった。


モップを担いだままで、イセタさんが階段男になっていた。
階段男が増えていた。
一人目の階段男が見えなくなっても階段男は続いていた。
足音がかたまりになって響いていた。
「おれぁ、血液、なんだよ」と、響いていた。


機械が動く。
私は煉瓦を確認する。
私の同僚は誰もいない。
私は優秀だから階段男にならないのだ。
みんな愚図だから階段男になったのだ。ユダガワも、昨日階段男になった。抱いておけば
よかった。


今や、ハタナカ主任も階段男だ。
階段男は列をなして階段を上っていく。
上っていく列と下ってくる列の二列になって階段男が階段を上っては下りていく。
「おれぁ、血液、なんだよ」
工場は動く。私が電源を入れる。
私は優秀である、
煉瓦を確認する。
血眼になって確認する。
私は一人で何人分もの仕事をする。機械は完璧だから不良品は一つもない。
「おれぁ、血液、なんだよ」
足音が工場を取り巻いている。
煉瓦を確認する。
確認する。
確認する。
工場の大きな音がする。足音が響きわたる。
ベルトコンベアに煉瓦が流れてくる。
機械が響き渡る。
「おれぁ、血液、なんだよ」


私は、ひとりの、優秀な、男だ。

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