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まちびと~母~

お母さんの声で目が覚める。ベッドから起き上がり、階段を下りて、リビングへ向かう。
「今日は目玉焼きよ」
と、お母さんが言う。


テーブルの上に、お母さんが乗っていた。
お母さんは温かい湯気を上げている。


お父さんは、コーヒーを片手にお母さんを読んでいる。
テレビから、お母さんがお母さんの話をしている。
テーブルの上のお母さんにお母さんを突き刺す。
お母さんの中から黄色いお母さんが出てくる。
お母さんが、焼き立てのお母さんをテーブルの上に置く。
「お父さん、読むのか食べるのかどっちかにして」
と、お母さんが言うので、お父さんはお母さんをお母さんの上に置いて、お母さんをお母
さんに塗って、食べる。
私は、黄色いお母さんをお母さんの上に乗せて頬張る。


お母さんを食べ終わると、私はお母さんに着替え、お母さんを開ける。
「いってらっしゃい」
と、お母さんが言う。


お母さんへと向かう道すがら、お母さんが、
「おはよう」
と、声を掛けて来て、一緒にお母さんへと向かう。


途中、同じクラスのお母さんがお母さんに乗って、私の横を走り去った。
私は、お母さんに、挨拶をしようと思ったのだけれど、お母さんもお母さんのことが好き
なのを知っていたのでやめておいた。
お母さんの前のお母さんには怖い顔したお母さんが立っていて、
「遅刻するぞ~!」
と、怒鳴っている。


急いでお母さんに入り、自分のお母さんに座る。
すると、お母さんがやってきて、
「お前、昨日のお母さん見た?」
と聞いてきた。
「私は昨日はお母さんをしていたの」と答えると、お母さんはつまらなさそうな顔をして、
自分のお母さんに戻った。


ほどなくして、お母さんがお母さんに入ってきた。


昼休みに、お母さんを開ける。今日のお母さんはお母さんだ。お母さんったら、またお母
さんをお母さんに入れている。嫌いだって言ったのに、いつもお母さんを入れる。お母さ
んに良いからと、いつも入れる。
私は自分のお母さんのお母さんを隣のお母さんのお母さんに移す。お母さんは、
「食べないの? 美味しいのに」
と、言いつつ、私のお母さんを口に運んだ。


お母さんが終わり、お母さんに帰る。
私は、お母さんの裏手のお母さんに上る。頂上にたどり着き、麓のお母さんを眺める。ち
ょうど、赤いお母さんがお母さんに沈んでいく。東のお母さんに一番お母さんが光ってる。
西のお母さんが赤く染まっていく。


お母さんにお母さんのお母さんが点く。いくつものお母さんが灯る。
私はお母さんに住んでいる。
お母さんにはお母さんがある。お母さんもお母さんもある。長く続くお母さんは隣のお母
さんに続き、そこにはまた別のお母さんがある。お母さんが飛ぶ。飛んでいるお母さんは
遠くのお母さんに向かっていくのだ。高い高いいくつも建ち並ぶお母さんにはたくさんの
お母さんが働いていて、お父さんも、お母さんで働くお母さんのうちの一人だ。


私はお母さんの中に生きている。
私もいずれお母さんになるのだろう。そして、お母さんを生むのだろう。そして、私のお
母さんはお母さんを生み、そのお母さんがまたお母さんを生むのだ。遠くのお母さんで、
あるいは、隣のお母さんで。そして、お母さんはお母さんを作る。
私はお母さんである。


お母さんに生きる、一人のお母さんである。


そう、思えば、
こそ、
私は、母から離れたいのだ。


私はいつの日か、お母さんから旅立つのだ。


そして離れ行く、お母さんを遠くから見るのだ。


建ち並ぶ高層お母さんは私に向かって手を振るだろう。
私の旅立ちを祝うのだろう。
私はお母さんから旅立つのだ。


私は、母の中で、母から生まれたいと望む、
一人の、
まちびとである。

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